デニム中毒者のたわごと

『文藝月光』&poetry

詩人・茨木のり子さん

 

わたしが一番きれいだったとき

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった 

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年取ってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
                  ね


+++++

倚りかからず

 もはや
 できあいの思想には倚りかかりたくない 
 もはや
 できあいの宗教には倚りかかりたくない
 もはや
 できあいの学問には倚りかかりたくない
 もはや
 いかなる権威にも倚りかかりたくない
 ながく生きて
 心底学んだのはそれぐらい
 じぶんの耳目
 じぶんの二本足のみで立っていて
 なに不都合のことやある
 倚りかかるとすれば
 それは
 椅子の背もたれだけ


+++++


「本当に大事なことは、詩には書かないの」


それはきっと、詩人ではない「素」の女性として向き合いたかったからでしょうね。

2番目に紹介した「倚(よ)りかからず」は、茨木のり子さんが73歳のときに発表されました。ご主人が他界されて24年、共に過ごした日々を想い、心をあたためながら一人暮らしを続けてこられたんです。まるで、ご自分で言われたルオー爺さんのようじゃないですか。

+++++

2006年、彼女はたったひとりで逝きました(病死です)。訪ねてきた親戚の人によって発見されました。しっかりした彼女らしく、きちんと遺書まで用意されていました。こんな遺書です。


「私の意志で、葬儀・お別れ会は何もいたしません。この家も当分の間、無人となりますゆえ、弔慰の品はお花を含め、一切お送り下さいませんように。返送の無礼を重ねるだけと存じますので。“あの人も逝ったか”と一瞬、たったの一瞬思い出して下さればそれで十分でございます」


とても強い人ですね。最期は「詩人・茨木のり子」ではなく、ご主人を前にしたときと同じ「三浦 のり子」として旅立たれたのだと思います。もちろん、31年前に先に行かれたご主人のところへでしょう。

何故って、そんな野暮なことは訊かないでください。のり子さんなら確実にこう言うはずです。

「だって、惚れておりますから」って。

享年79でした。

+++++

ちなみにルオー爺さんことジョルジュ・ルオーさんは、こんな人です。









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~ Comment ~

NoTitle 

はじめまして こんにちは
あしあとをたどって拝見させていただき驚き・・
茨木のり子さんの詩、銀のしずくふるふる
どちらも持っています・・どちらも大切な本です。
お話も解りやすくいいな~と思っておりましたら、、あれれ?
こちらのお洒落~な素敵なお店!
以前、伺ったことがあります!
私の写真きっと、見憶えのある景色ばかりかと(笑・オハズカシイ・・)
また、おじゃまさせていただきますね
よろしくお願いします

ようこそいらっしゃいました^^ 

sakana74さん、はじめまして、こんにちは^^
ようこそいらっしゃいました! 大歓迎いたします^^

>茨木のり子さんの詩、銀のしずくふるふる
どちらも持っています・・どちらも大切な本です。

あ、それは良かったです。

>お話も解りやすくいいな~と思っておりましたら、、あれれ?
こちらのお洒落~な素敵なお店!
以前、伺ったことがあります!

え゛? そうなんですか! それはまた嬉しいことですね^^
いつでもまた遊びにいらしてください。

>私の写真きっと、見憶えのある景色ばかりかと(笑・オハズカシイ・・)

いや、そちらのHPをロムらせていただきましたが、素晴らしいですね!!! これから順を追って、遡らせていただきます^^

>また、おじゃまさせていただきますね
よろしくお願いします

ええ、いつでも気の向いたときにお越しください。座布団とお茶でも用意してお待ちしております^^
この場に集まってくるメンバーも、素敵な人ばかりですので、何のお気遣いもいらないです。

ということで、こちらこそ、よろしくお願いします。

詩集、借りてきました。 

図書館で、『自分の感受性くらい』を二週間前に借りてきました。
(明日が返却日)おお、そしたら、デニムにこの記事が。

私は、すぐに誰かに寄りかかってしまいたくなるし、誰かのせいにしたくなるのです。だからこそ、この方の詩はいいなあって思いました。自分の内部で葛藤が常に起きるからこそ人間らしく、克とうとする姿勢が見える言葉がいいんだろうなって感じました。

今日の記事で思ったのは、打ち克とうとする強いひとの性別が女性だった、でした。「わたしが一番きれいだったとき」って、人間の「きれい」で、性別が女性なので「女性のきれい」なんだ、とグズグズとした感想を持ちました。(作者とは反対ですけど)

「本当に大事なこと」を書かないという、スタンス。すごい。個人的に思うことは、そういうことも全部ぶちまけたらってハナシになるだろうけど、それは違うのだろうな。

って、ぶつぶつ。まとまりがなくてすみません。
考えることができてよかったです♪

おっ! 借りてきましたか^^ 

まおまおさん、こんにちは^^

>図書館で、『自分の感受性くらい』を二週間前に借りてきました。
(明日が返却日)おお、そしたら、デニムにこの記事が。

ザ・シンクロニシティですね^^

>って、ぶつぶつ。まとまりがなくてすみません。
考えることができてよかったです♪

はい。いつもながら、まおまおさんの哲学ってる話に聴き入りました。そういう感じ方をするってことが大切だと思いますね。そいつが「視点」になりますから。いろんな角度からものごとを眺めてください。もちろん渦中に入ることも必要ですよね。
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