デニム中毒者のたわごと

Literature

リチャード・ブローティガンを読む その15

 
同じく詩集『六月三十日、六月三十日』から、今度は日本版『東京日記』の翻訳者である福間健二さん訳で>「キティ・ホークのキモノ」他九編を紹介します。

キティ・ホークのキモノ

日本のテレビを見る
キモノ姿のふたりの若い女性が
複葉機のよこに立っている
    そうだよ
    あのなつかしいかたちの飛行機だ

男がふたりにインタビューしている
とても活発で楽しそうな
会話がつづいている
                    
日本語がわかればいいんだが
どうしてもぼくにはわからない
    なぜかれらが複葉機の
    となりに立っているのか

でもふたりはいつまでも
ぼくの頭の中に立っている
    離陸を待つ、キモノ姿の
    楽しそうなパイロットとして
                      東京
                          一九七六年五月十三日
                       
                            Kitty Hawk Kimonos



ニワトリの声

ぼくはけさ考えていた
ぼくが最初に鳥を見るのはいつだろうって
    日本でだよ
頭の中のお金をスズメに
賭けていたんだけど
    そのとき
    ニワトリが鳴いたんだ
東京の渋谷区のある裏庭から 
    それはきこえて
それでちっともかまわなかった

                      東京
                          一九七六年五月十四日

                        Crow




一二〇〇万人

ぼくはふさぎこんでいる
なにかを映すことも
影を投げることもしない
    悲しい思いにとりつかれて
一二〇〇万人の人々がこの東京には生きている
ぼくはひとりぼっちじゃないんだ
他の人も感じてるにちがいない
    ぼくが感じるみたいに

                      東京
                          一九七六年五月二十六日
                          午後一時

                       The 12,000,000



靴、自転車

日本の夜に耳をかたむける
窓はしめてあってカーテンもひいて
外は雨がふっているとぼくは思う
心がやすらぐよ ぼくは雨が大好きなんだ
ぼくはいままで来たことのなかった都市、
    東京にいる
雨がふっていると思う こんどは嵐の音にきこえてくる
    すこし酔っぱらったかな
通りを歩いてゆく人々
自転車が一台

                      東京
                          一九七六年五月二十六日

                       Shoes,Bicycle



タクシー運転手は写真とは
ちがって見える

東京でもニューヨークでも
かわりはない
この男たちは
写真とおなじには見えない
ちがう人間なのである
ぼくはほんのちょっとでもごまかされは
しかい 完全なよそ者が
    タクシーを運転してるんだ

                      東京
                          一九七六年五月二十八日

       Taxi Drivers Look Different from Their Photographs


昼を夜にして

東京の夜明けの中を
タクシーがぼくを連れて帰る
ぼくは夜じゅう起きていた
太陽がのぼるまえにぼくは
    眠っているだろう
ぼくは昼じゅう眠る
タクシーが枕で
街路が毛布
夜明けがぼくのベッドなんだ
タクシーはぼくの頭を休ませる
ぼくは夢にむかう途中だ


                      東京
                          一九七六年六月一日

                          Day for Night



東京のアメリカン・バー

ぼくがいるこのバーは
若くて保守的で鼻もちならない
    アメリカ人の男がたくさんいて
酒を飲みながら
    かれらのようなたぐいの男と
寝たがる日本人の女を
    ひっかけようとしている
ここではどんな詩を見つけるのも
    むずかしい
この作品がその証拠である

                         東京
                          一九七六年六月五日

                       American Bar in Tokyo



病院に友人を見舞いに行って

病院にカズコを見舞いに行ってきた
彼女はくたびれた顔をしていた 六日前に
    手術を受けたのだ
彼女は夕食をゆっくり、しんどそうに食べた
食べるのを見ているのはつらかった 彼女は
とてもくたびれていた ぼくがかわりに食べて
彼女がその栄養を受けとるなんてことが
    できたらいいのになあ

                      東京
                          一九七六年六月九日

                       Visiting a Friend at the Hospital


永久的な時差ボケ

飛行機で日本に来る前に
ぼくは時差ボケのことを心配していた

〈ぼくの〉飛行機は
水曜日の午後1時半に
    サンフランシスコをたち
10時間45分後
次の日、木曜日の
    午後4時に
    東京に着くのだった

ぼくはそのことを心配していた
自分が重い不眠症のために
永久的な時差ボケをかかえている
    ということは忘れて

                      東京
                          一九七六年六月九日

                               Eternal Lag




公共の場所、カフェやバーなどで
詩を書くこと


見知らぬ人がたくさんいる場所でひとり
ぼくは天上の合唱隊の
    まん中にいるみたいに歌う

    ――ぼくの舌は蜜の雲――

ときどき自分を気味がわるいなと思う

                      東京
                          一九七六年六月十一日

Writing Poety in Public Places,Cafes,Bars,Etc.


ブローティガンの曇り空

リチャード・ブローティガンの十冊目にして最後の詩集『六月三十日、六月三十日』(Jun 30th, Jun 30th)からの10編である。
一九七六年五月、ブローティガンははじめて東京にやってきた。そして日記をつけるように詩を書いていった。「六月三十日」というのは、彼が日本を離れた日。ここには訳さなかった詩集の最後の作品「朝日ののぼる国」の日付であり、彼は故郷アメリカへと太平洋上の日付変更線をまたぎこして、。「六月三十日」を二度経験したのである。それが詩集の題名の由来だが、そこまでの滞在のあいだに彼が日本で何をしたか、何を見たか、何を感じたかが、「キティ・ホークのキモノ」にはじまる76編の中に記録されている。そのことだけでもとても興味深い詩集だ。
最近はあまり言われなくなったが、以前は陸上や水泳に「日本国際最高記録」というものがあった。外国人が日本で出した記録を意味あるものとして考えていたのだ。スポーツとおなじには考えられないだろうが、外国人が日本に来て滞在中に書いたものを、たとえ外国語であっても、私たちが書くのとおなじ空気をくぐりぬけたものという意味で大事にしたい気がする。私たちの詩が必要としている「外」からの刺激の、有効なひとつになると思う。最近ではクリス・モズデルの仕事の例などもあるが、外国人がこの国で書くとどうなるのかということを、いろんなかたちで見たいものだ。
ここに訳出した10編は、ブローティガンの日本への反応がそのまま彼の生きることへの不安とつながっていて、そのつながり方がわかりやすく見えているものだ。詩集の他の作品には、短い時間で外国を体験する場合の微妙なもの、ちょっとひっかかるなというものも出ているが、ブローティガンの詩はいつも、言葉に負荷をかけることなく、瞬間をうまくとらえている。わるくいえば、間のびした俳句というところもあるが、しかし、その瞬間のひとつひとつに、一九六〇年代からのたくさんの眠れない夜を通りぬけてきた絶望とやさしさが声をあげている。その静かさ、スマートさのうしろにとてもつらいことに耐えているというものがある。私は、石油ショックの後遺症で仕事を見つけにくくなっていた一九七六年の東京の、ある日の曇り空を思い出させられた。


福間健二さんのあとがきもまた素晴らしいものでしたね。

今回シリーズはこれで終わりです。願わくば、興味を持たれた方の少しでも多くにブローティガンの著作を読んでいただきたいですね。個人的にメンタリティ的に最も近しい作家のひとりだと勝手に思っているものですから……。




   

~ Comment ~

NoTitle 

初めまして。
こんにちは。
Googleで「リチャード・ブローティガン」と検索をしているうちに、どこをどうさまよってかこちらまで漂流してきた者です。

「リチャード・ブローティガンを読む」全15回、楽しく読ませていただきました。まずはインターネット上に数々の貴重な寄稿を掲載してくださったことについて、お礼を申し上げます。
大変興味深い記事ばかりで、つい時間を忘れて夢中になってしまいました。
特に谷川俊太郎氏の証言はおもしろかったです。交友関係があったというのは知っていたんですが、その詳細を語っているところは初めて読みました。
ブローティガンの女性遍歴にまつわるエピソードなんかも結構衝撃的でしたね(笑)

ともあれ、とても素敵な時間を過ごさせていただきました。
あらためてお礼を申し上げます。
ありがとうございました。

ありがとうございます 

Q さん、初めまして、こんばんは^^

>Googleで「リチャード・ブローティガン」と検索をしているうちに、どこをどうさまよってかこちらまで漂流してきた者です。

ようこそ、いらっしゃいませ!

>「リチャード・ブローティガンを読む」全15回、楽しく読ませていただきました。まずはインターネット上に数々の貴重な寄稿を掲載してくださったことについて、お礼を申し上げます。
大変興味深い記事ばかりで、つい時間を忘れて夢中になってしまいました。

ありがとうございます! こういう記事は、ファンが共有した方がいいんじゃないかと思いまして……。
ですから、そう言っていただけると冥利に尽きます。

>特に谷川俊太郎氏の証言はおもしろかったです。交友関係があったというのは知っていたんですが、その詳細を語っているところは初めて読みました。

はい。

>ブローティガンの女性遍歴にまつわるエピソードなんかも結構衝撃的でしたね(笑)

ですね(笑)ま、らしいっちゃらしいですけど……。

>ともあれ、とても素敵な時間を過ごさせていただきました。
あらためてお礼を申し上げます。
ありがとうございました。

とんでもないです! とても嬉しいコメントをありがとうございました♪

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