デニム中毒者のたわごと

Literature

リチャード・ブローティガンを読む その3

 

今度は谷川俊太郎さんインタビューの中でも触れられていた「対話・ブローティガン+谷川俊太郎」(実際に渋谷の「ジャンジャン」で行われました)のためにブローティガンが記した質問の全文を紹介します。

谷川俊太郎さんへの二〇の質問
              リチャード・ブローティガン 原成吉

いま東京で目を覚ましたところで、時間は朝の5時、まだ時差ぼけで頭がすっきりしないけど、この質問を書いています。

(一) 最初の質問。番号を書いて、五分ほど(一)という数字を見つめているのだけれど、それに見合った質問がまったく思いつかない。だから、最初の質問はするつもりはなし、ということにして、(二)へ移ろう。

(二) ぼくは他人の夢の話を聞かされるのはあまり好きじゃない。あなたは人の夢の話を聞くのが好き?

(三) ぼくは手紙を書くのが嫌いだな。ぼくの知り合いのアメリカの作家のほとんどがそうだ。あなたは手紙を書くのが好き?

(四) あるインタヴューであなたは、西部劇が好きだっていっていたけど、ジョン・ウェインの死をどう思う?

(五) 女と同じくらい綺麗な詩って読んだことあるかい?

(六) 二つ質問を書いたけれど、両方ともばかげているから止め。だから(六)の質問はなし。続いて(七)へ進もう。いや、ちょっと待って。ぼくがこの質問を書いているのは、二十四時間営業しているホテルのレストランなんだ。テーブルの一つにとても綺麗な女の子が、夜明けの空を背にしてすわっている。ろくな質問がうかばなかったのは、彼女にじっと見とれていたから。あの子が席を立って、レストランから出ていった。これで質問に集中できる、といいんだけれど。

(七) ぼくはいままで人生でいろいろ悪いことをやってきたけど、罪の意識はほとんど感じていない。どんな痛い目にあっても、その経験がものをいうからね。砂漠に砂がつきものみたいに、詩人には経験が必要なんだ。あなたの考えは?

(八) あなたは生まれて四十七年たつわけだけれど、実際のところは何歳ぐらいに感じている?

(九) ぼくは大陸に住んでいるから、島国でのあなたの暮らしがどんなだか興味があるんだ。

(十) この質問は線を引いて、ひと休み。ぼくの知性が働かないんだ、なにせ気が散るような美しい女がいなくなったからね。

(十一) 自分の書くものの地理的境界線としてぼくは死を使う。ぼくが書いているどんなものでも、その背景にはいつも音楽が流れている。それが死なんだ。あなたの作品と死との関係は?

(十二) なんで詩人は、自分を破滅させるような道楽しかできないのか? ぼくなりの考えはあるけど、あなたのが知りたい。

(十三) 年をとるにつれて、精神の働きが、時には現実の経験よりもおもしろいことに気がつくことがある。たぶん現実の経験がどこか間違っているんだろう。それはともかく、自分の精神のなかで、人生の大半を生きている詩人についてはどう思う?

(十四) あなたはもう、『二〇億光年の孤独』を書いた若き日の詩人谷川俊太郎の、父親くらいの歳になる。それでいま、自分の子どもについてどう思う?

(十五) この質問はとりけすことにしたよ。あまりに長くて複雑すぎて、コンピューターしか答えられないようなものだから。アメリカ風にいえば、「不経済」ってやつだね。

(十六) ぼくは信心深いほうじゃないけれど、宗教があなたの人生や詩 にとってどんな意味をもっているのか知りたい。

(十七) あなたが子どもの本を書いていることがぼくには興味深い、ぼくにはたいていの子どもは退屈なだけだから。子どもが好きじゃないわけじゃないんだ。ただ、子どもにそんなに興味がわかないだけ。きみは子どものための本を書くとき、一九七〇年代の現実の子どもを想定して書いている? それとも一九三〇年代の谷川俊太郎の少年時代を思って書くのかな? この質問にはぼく自身こまっているんだ。何度も読み返しているけれど、この質問をすると何か腑に落ちない。理由はわからない。たぶんその訳が知りたくて質問しているのだと思うけど。

(十八) ぼくは男だから女のほうが気が和む。これまでもずっとそうだったな。女と一緒のほうが正直になれるからね。男はほとんどいつも男同士で競争している、それにいつもエゴが邪魔をするからしっくりいかない。でも女を受け入れるためには、男がまわりにいて監視されていないと、ぼくはだめだ。これについてのあなたの考えは?

(十九) 一九歳のとき、ぼくは偉大な詩を書いてみたかった。どうやったら書けるかなんて気にもしなかった。もちろん偉大な詩なんて縁のない話。いま書きたいのは、その詩が伝える経験をそこなうことのない詩で、それが良い詩かどうかはどうでもいい。問題なのはその経験だけ。これについてのあなたの考えは?

(二〇) とうとう最後の質問まできたけれど、もう尋ねるのはよそう。番号や質問は、出来たての彗星、あるいはへたすると凍った宇宙になるほど、気まぐれなものだから。経験と知性で、このささやかな人生の探求のスペースを与えてくれた谷川さん、ありがとう。
                 一九七九年九月 リチャード・ブローティガン


いかにもブローティガンらしい発言です。良くも悪くも稚気に溢れていますよね。シンパシーを感じるところも多いです。

※ 編註として、以下の文章も記されています。

この時の模様は当時の新聞に次のように紹介されている。
「私が落ち着ける場所はサンフランシスコ、東京、そしてモンタナ」というほどの日本ファンでもあるそのブローティガン氏が四度目の来日をしたのを機会に、友人の谷川俊太郎氏と語りあう会が開かれた(六日午後、東京・渋谷「ジァン・ジァン」)。
(中略)
おそらく資質という点で、ブローティガン氏といくつかを共有するはずの谷川氏は、この数年多くの人にぶつけてきた例の「33の質問」から二十四を用意し、酒とグラスをたずさえて登場。一問一答の形で対話は進められた。即興性を身上とする両者らしく、谷川氏が「自信をもって扱える道具を一つあげれば?」と質問すると「どんな道具もダメ。糸ノコで指を切断しそうになったこともある」「朴訥なキコリのようなのに」「キコリじゃなく、指切りだ」「指切りは、日本語ではたいへんいいことなんだ」という具合にラリーが続く。
「女性の顔と乳房のどちらに強いエロティシズムを感じるか」
「顔、とくに目だ。そこに彼女の知性が現れる。知性が最もセクシャルなものだ」
「ヨーロッパについてどう思うか」「三十五歳で初めてロンドンへ行ったが、西部へ戻った時ほっとした。文学、絵、音楽に非常な影響を受けたし、愛してもいるが、またいつ行くことになるか……」
「大地震。まず何を持ち出すか」「一緒にいる人を外に出すことが先だ。書きかけの原稿より人間の方が大事だからね」
「何のため、だれのためになら死ねるか」「大事な人が四、五人いる。その人たちから代わってくれと言われれば」
「素足で歩くなら何の上が一番いいか」「木の床だ」
                                  (「読売新聞」一九七九年十月九日夕刊)


残念ながら、ブローティガンの質問に対する谷川さんの回答は記されていませんでしたね。

今回シリーズは、まだまだつづきます。



   

~ Comment ~

NoTitle 

質問の仕方と内容、面白いですね。
どんな回答されるのかすっごく興味あったんですけど、
記されてなくてすごく残念~。

同感です。 

うめさん、おはようございます^^

>質問の仕方と内容、面白いですね。

極めて彼らしいです。

>どんな回答されるのかすっごく興味あったんですけど、
記されてなくてすごく残念~。

おそらく回答はされていたと思います。でも、こうして掲載されていないことも含めて、これもまたブローティガンらしいっちゃらしいです(あるいは谷川さん風とも言えそうです)。

半分 

質問の半分はいいなあ!!って感じましたけど(質問をしない空白とか)、残りの半分はいかんともしがたいほどムカっとしました。滅びろ、と思いました(というかすでに故人。分かっていたら、わたしは絶対近づかない)。でもその共感と反感が大事なのでしょう……。そうなんだ、そうなんだ……、きっとそうなんだあああああ~~~~涙。そう思うことにします笑(嫌だけど)

そうなのだ! 

まおまおさん、こんばんは^^

>質問の半分はいいなあ!!って感じましたけど(質問をしない空白とか)、残りの半分はいかんともしがたいほどムカっとしました。滅びろ、と思いました(というかすでに故人。分かっていたら、わたしは絶対近づかない)。

怒ってますなあ~(笑)

>でもその共感と反感が大事なのでしょう……。そうなんだ、そうなんだ……、きっとそうなんだあああああ~~~~涙。そう思うことにします笑(嫌だけど)

そう思ってくださいな♪
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